成長ホルモン治療とは?仕組みと、治療を考える前に知っておきたいこと
「成長ホルモン治療」という言葉は、聞いたことがあっても、実際にどのような治療なのかは、あまり知られていないように思います。注射をするらしい、お金がかかるらしい、副作用が心配、といった断片的なイメージだけで、判断に迷われているご家庭も少なくありません。
お子さまの身長について治療を考えるとき、まず大切なのは、その治療がどのようなものかを、正しく知っておくことです。仕組み、内容、対象、通院の流れ、そして注意点まで知ったうえで、ご家庭として納得して決めていただきたいと考えています。
この記事では、成長ホルモンの働き、治療の内容、対象となるお子さま、治療中の流れ、そして知っておいていただきたいリスクや注意点について、できるだけ分かりやすく解説します。お子さまの将来の身長について、真剣に考えたいとお思いのご家庭の参考になれば幸いです。
成長ホルモンとは
成長ホルモンは、脳の下垂体という場所から分泌されるホルモンです。もともと、私たちの体の中で作られているものです。
成長ホルモンには、骨や筋肉の成長を促したり、体の代謝を整えたりする働きがあります。子どもの時期には、特に身長を伸ばすために欠かせないホルモンです。
分泌される量は、一日を通して一定ではありません。特に多く分泌されるのは、眠りについてしばらくたった、深い眠りの時間帯とされています。夜にしっかり眠ることが、身長の伸びに関わるといわれるのは、このためです。
成長ホルモンが、骨を直接伸ばしているわけではありません。分泌された成長ホルモンは、主に肝臓に働きかけて、「IGF-1(インスリン様成長因子-1)」という物質を作らせます。このIGF-1が、骨の端にある「骨端線(成長線)」の軟骨の細胞に働きかけることで、骨が長くなり、身長が伸びていきます。
骨端線については、以前のコラムで詳しくご紹介しました。骨端線が開いている間は、成長ホルモンの働きによって骨が伸びることができます。一方、骨端線が閉じてしまうと、骨は伸びなくなります。成長ホルモン治療は、この仕組みを土台にした治療です。
成長ホルモン治療とは、どのような治療か
成長ホルモン治療とは、成長ホルモンを注射で補うことで、身長の伸びをサポートする治療です。
体の中で作られるホルモンと同じ働きをするものを補うため、「足りない分を補充する」というイメージを持っていただくと分かりやすいと思います。
◆注射は、ご自宅で毎日行います
治療は、基本的に、ご自宅で毎日、皮下注射を行います。皮下注射とは、皮膚のすぐ下に、薬を注入する方法です。注射を行う時間帯は、夕方から寝る前にかけてです。成長ホルモンが夜間に多く分泌されることに合わせた時間帯になっています。
「毎日の注射」と聞くと、不安に思われる方も多いと思います。針は非常に細く、お子さまでも扱いやすいように工夫された、専用の注射器を使います。初めての注射の際は、当院で、院長が打ち方を丁寧に指導します。ご家庭で一人で始めていただくわけではありませんので、ご安心ください。
◆週に1回のタイプもあります
成長ホルモン製剤には、週に1回の注射で済むタイプもあります。当院でも、ご案内は可能です。ただし、費用のご負担と、見込まれる効果を総合的に評価した結果、当院では、毎日注射を行うタイプを基本としています。
ご自宅で毎日、お子さまと保護者の方が続けていくことが、この治療の特徴です。治療を検討される際は、ご家庭での毎日の取り組みが可能かどうかも、あわせて考えていただければと思います。
どのようなお子さまが対象になるのか
成長ホルモン治療は、保険診療で受けられる場合と、自費診療で受ける場合があります。
◆保険診療の場合
成長ホルモンの分泌が不足している病気など、特定の病気が診断された場合には、保険診療での治療が行われます。ただし、その条件は厳しく、-2SDを下回っていても、検査で異常が指摘されないと、保険診療では治療に進めないことが少なくありません。この点は、以前のコラムでも触れたとおりです。
◆当院の診療の場合
当院の診療は自費診療であり、「身長を伸ばしたい」とお悩みのお子さまが対象です。低身長に当てはまらないお子さまでも、ご相談いただけます。
なお、ご自宅での注射による治療であること、また、治療には血液検査(採血)もあることから、当院では、治療の対象を小学生以上のお子さまを目安としています。
◆骨端線の状態によっては、効果が見込みにくいこともあります
治療が効果を発揮するのは、骨端線がまだ開いていて、骨が伸びる余地が残っている間です。すでに骨端線が閉じ始めている場合には、治療による伸びが見込みにくいこともあります。そのため、治療を検討する際には、手のレントゲンや骨盤部のCT検査などで、骨端線の状態を確認します。
◆知っておいていただきたいこと
「適応外使用」について
成長ホルモン製剤は、国内で承認された医薬品です。承認されている使い方(効能・効果)は、成長ホルモンの分泌不全による低身長症など、特定の病気を対象としています。
当院では、「身長を伸ばしたい」とお悩みのお子さまを対象に、この製剤を自費診療で使用しています。この使い方は、承認されている効能・効果とは異なるため、医薬品の分類上は「適応外使用」にあたります。
適応外使用とは、承認された範囲とは別の目的で、医師の判断と責任のもとに医薬品を使用することをいいます。医療の現場では、さまざまな分野で行われることがあり、それ自体が危険な使い方という意味ではありません。
治療前と治療中は、定期的に血液検査を行い、お子さまの体の状態を確認しながら進めます。気になる点がございましたら、ぜひカウンセリングの際にお問い合わせください。
治療でどのくらい伸びるのか
治療を検討されるときに、最も気になるのは、「どのくらい伸びるのか」ということだと思います。
治療による身長の伸びは、お子さまのご年齢、二次性徴(思春期)の進み具合、骨端線の状態、そして個人差によって大きく異なります。目安として、自然な伸びに加えて、1年あたり2〜3cm程度の上乗せが期待されます。ただし、これはあくまで目安であり、すべてのお子さまに同じ効果が得られるわけではありません。効果をお約束することもできません。
また、治療を始める時期も、大切な要素です。早く始めるほど、骨端線がまだ閉じておらず、身長の伸びが期待できる時間が長く残されています。反対に、思春期が進んで骨端線が閉じ始めると、期待できる伸びは少しずつ小さくなっていきます。以前のコラムでもお話ししたとおり、骨端線が閉じる時期の目安は、一般的に、女の子で14〜16歳ごろ、男の子で16〜18歳ごろです。
もちろん、「早く始めなければならない」というわけではありません。治療を行うかどうかは、あくまでご家庭の判断です。ただ、身長に関わる治療には「時間の制限」があることを、頭の片隅に置いていただければと思います。
治療中の流れと通院
治療を始めるまでと、治療中の流れをご説明します。
- 初診カウンセリング(身長・体重の測定、問診、思春期の進み具合の確認)
- 必要に応じた検査(手のレントゲン、骨盤部のCTなど)
- 結果のご説明と、治療についてのご案内
- 治療を行うと決められた場合は、血液検査、注射の打ち方の指導を経て治療を開始
初診カウンセリングの流れについては、以前のコラムで詳しくご紹介しています。
◆治療中の通院と検査
治療が始まったあとは、基本的に月に1回、診察にお越しいただきます。診察では、身長や体重の変化、注射の状況、お子さまの体調などを確認します。
血液検査は、治療開始前、治療を始めて1〜2か月後、その後は半年に1回ほどのペースで行います。確認する項目は、成長ホルモンの値、性ホルモンの値、血糖値、甲状腺機能、内臓の機能などです。あわせて、亜鉛やビタミンDなど、不足しがちな栄養素の数値も確認します。身長を伸ばすためには、成長ホルモンだけでなく、体を作るための栄養が十分であることも大切だからです。
◆治療の期間について
当院では、治療は、基本的に6か月間続けていただくことをおすすめしています。成長ホルモン治療は、継続して行うことで、効果が表れてくる治療だからです。
6か月という区切りのタイミングで、身長の伸び方を確認し、治療の効果を評価します。そのうえで、さらに続けることで、より大きな効果が見込めるか、あるいはここで治療を終えるかを、ご家庭と相談しながら決めていきます。
成長ホルモン治療は、ずっと続けるものではありません。お子さまの成長の時間のなかで行う治療です。骨端線が閉じる時期が近づけば、治療を終える時期も見えてきます。
知っておいていただきたいリスク・注意点
どのような治療にも、メリットだけでなく、リスクや注意点があります。成長ホルモン治療も同じです。ここでは、主なものを概要でお伝えします。
◆主な副作用
成長ホルモン治療で起こり得る副作用として、次のようなものがあります。
- 注射した部位の赤み、痛み
- 頭痛
- 関節の痛み
- 稀に、血糖値や甲状腺の異常
当院では、稀に頭痛や注射部位の赤みを確認することがありますが、治療を中止するような副作用は、これまでに確認していません。成長ホルモンは、もともと体の中で作られているホルモンであり、それを補う治療のため、過剰な投与がなければ、副作用は出にくいと考えられます。ただし、まったく起こらないとはいえません。
◆定期的な血液検査で確認します
副作用の早期発見のために、治療中は定期的に血液検査を行います。先ほどご紹介したとおり、血糖値や甲状腺の状態も、検査で確認します。お子さまの体の状態を確認しながら、安全に配慮して治療を進めていきます。
気になる症状があるときは、次の診察を待たず、遠慮なくご相談ください。
◆費用や通院の負担について
自費診療のため、費用はご家庭のご負担となります。また、毎日の注射と、月に1回の通院が必要です。お子さまにも保護者の方にも、一定の負担がかかる治療です。
治療を行うかどうかは、ご家庭の判断です。メリットだけでなく、こうした点も知っていただいたうえで、納得して決めていただくことが大切です。リスクや注意点については、あらためて別のコラムでも、詳しくご紹介する予定です。
まとめ
今回は、成長ホルモン治療について、仕組みから注意点までお話ししました。ポイントを整理します。
- 成長ホルモンは、体の中で作られるホルモンで、骨端線に働きかけて身長を伸ばす
- 成長ホルモン治療は、足りない分を注射で補う治療。当院では、基本的に毎日、夕方から寝る前に、ご自宅で皮下注射を行う
- 初回は、院長が打ち方を指導する。対象は、小学生以上のお子さまを目安としている
- 伸びには個人差があり、効果はお約束できない。早く始めるほど、期待できる伸びの時間は長く残されている
- 診察は月に1回、血液検査は、開始前、1〜2か月後、その後は半年に1回ほど。治療は基本的に6か月を区切りに、効果を評価して続けるかどうかを相談する
- 副作用の可能性や、適応外使用であることなど、知っておいていただきたい点がある
お子さまの将来の身長について、ご家族でしっかり考えたいとお思いの方は、まずは現在の状態を知ることから始めてみませんか。ぜひ一度、ご相談ください。


